『音声言語VI』近畿音声言語研究会 2008年


田頭(谷口)未希

PNLPの音声特徴 ―首都圏方言話者を例に―

要旨

 『日本語話し言葉コーパス』を利用し、首都圏方言話者の自発音声における韻律句末近くにみられる音調特徴を音声的観点から検討した。ここで扱う音声現象は「アクセント句やイントネーション句の次末モーラが,そこにアクセントがないにもかかわらず,前後のモーラより高められる現象」(『日本語話し言葉コーパス』の韻律ラベリングではPNLPと呼ばれている現象)で,例えば「˹デ˺ー↷タガ(データが)」のイントネーションで,「データ」のアクセントによるピッチ下降( ˺ で表す)以外に「タ」のところで顕著な上昇と下降の音調(↷で表す)がみられるような場合である。東京生まれ首都圏育ちの104名の学会講演または模擬講演の発話,合計約16時間分を分析した。その結果,頻度からすると決して多くはないが,話し言葉には韻律句末近くでのPNLPが観察され,韻律境界との関係から,PNLPは発話の韻律階層構造上のある特定の階層に結びつく(あるいは結びつきやすい)というわけではない点が示唆された。また,PNLPは4モーラから構成されるアクセント句で生起する場合が多くみられ,1つのアクセント句内でのアクセントとPNLPの距離は短く,アクセント句内で凡そ高低リズムを交互に刻む傾向がうかがえた。また「カ」「ス」「ド」の音でPNLPが生じることが多く観察され,PNLPを含むアクセント句は含まない句よりも発話速度が速い傾向があること等がPNLPの特徴としてあげられる。