『音声言語VII』近畿音声言語研究会 2016年


郡史郎

長い複合名詞のアクセント—「携帯電話電源オフ車両」などの説明原理についての覚え書き—

要旨

「携帯電話電源オフ車両」のように枝分かれ構造方式では説明できない長い複合名詞のアクセントの決定方式として「重層型順行意味処理方式」を提案した。この方式では次のような3段階の処理をおこなう。(1) まず複合名詞全体を冒頭から見てゆき,2要素からなる下位の複合名詞があればそれを1単位として取り出す(たとえば「携帯電話」と「電源オフ」)。(2) 次に,とりだした下位の複合名詞について,それを構成する2要素のアクセントが融合するかどうかを意味的な基準によって決める。後部要素が動作性の名詞でも状態性の名詞でもなく,前部要素が後部要素を意味的に限定する関係がある場合は2要素は融合し,各要素の元のアクセントにかかわらず全体としてひとつのアクセントを持つ。それ以外の場合は元のアクセントを保持する。融合する場合,全体の具体的なアクセント型は,後部要素の長さや本来のアクセントを考慮して決める。(3) 最後に,隣接する下位単位(下位の複合名詞および独立要素)のアクセントどうしをさらに融合させるかどうかを,先と同じ意味的な基準によって決めてゆく。ここで,後部単位がすでに複合語である場合は融合させない。長い複合名詞に見られるアクセントの変異形は,下位複合名詞への分割のしかたの違いで説明できる部分と,全体を1アクセントに融合させる「全融合化方略」と干渉している部分がある。