『音声言語VII』近畿音声言語研究会 2016年


韓喜善

初級および上級学習者による語頭平音・激音・濃音の知覚判断—子音部の影響について—

要旨

  本稿は,日本語を母語とする初級学習者と上級学習者を対象に,語頭平音,激音,濃音の判断について調査したものである。破裂音,破擦音,摩擦音のそれぞれの平音,激音,濃音を語頭に含む1音節語 (/ta, tha,  t’a, tsa, tsha, ts’a, sa, s’a/) を用いて3種類の知覚実験を行なった。一つ目は,音声を加工せず,そのまま聞かせる実験である。二つ目は,子音部と母音部のどちらに注目するかを調査するために,子音部と母音部を入れ替えた実験である。三つ目は破裂音と破擦音のVOTを段階的に変えて子音部の長さの影響について調査した実験である。実験の結果,初級学習者は濃音の判断率が韓国語母語話者より低い傾向が見られた。破裂音と破擦音では濃音(/t’a, ts’a/)を激音と判断する場合があった。摩擦音の濃音(/s’a/)の判断はできないという結果を得た。初級学習者は子音部に注目していない点では,韓国語母語話者に近い傾向である。しかし,韓国語母語話者のように後続母音に完全に注目していなかった。上級学習者は,後続母音の音響的特徴(F0)だけでなく,子音部の音響的特徴(呼気の有無)にも注目し,それらを合わせて平音,激音,濃音の判断を行なっていた。日本人学習者の平音・激音・濃音の判断については,上級学習レベルに達しても母語話者と同一の判断には至っておらず,その意味で習得の困難な項目であることが明らかになった。